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おもに少年愛と小説に関する雑記。エッセイとコラム
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少年の街 金と昌巳1
 「こんなになるまでほっときやがって。死んじまうぞお前」
 白衣の大柄の男は金修平といって、韓国籍のれっきとした医者だ。三十過ぎだが、大学病院を追い出されたとかで、四、五年前からこの街で小さな診療所をやっていた。土地柄に加え、無保険者を平気で診る男なので、いきおいまともな患者はよりつかない。
 「構わんといてほしかったわ。もうちょいで死ねたのに」
 破れ診察台の上で、悪態をついているのは昌巳と呼ばれている少年だった。自称11歳だが9歳くらいにしか見えない。日頃は、愛嬌のある顔を裏切り、人好きのしないほど恐ろしく気の強い少年だったが、今はさすがに声に元気がなかった。
 「死ぬんならこれいらねえな。切ってやろうか?」
 「いたたたたっ! 何すんね。アホ! ボケ……」
 金はもがき苦しむ昌巳の両足をがっちり押さえて逃がさない。子どもらしくベソをかきだしそうな昌巳の横顔を、にやついた顔で見下ろしていた。

 金の診療所は古びた雑居ビルの二階にあり、裏路地側の階段から、直接上っていけるようになっている。
 冷たい晩秋の小雨の降る夕刻、金はコンビニのおでんをありがたげに抱きしめ、裏路地に折れたのだった。
 すでにしとど濡れて冷たそうな階段脇のドブ板の上に、昌巳は半袖半ズボンで眠るようにうずくまっていた。
 ここらでは路上で眠る少年は珍しくない。
 街を仕切る人間に大人しく使われてさえいれば、稼ぎが悪くてもメシとネグラは何とかするのが「彼ら」のやり方。しかしひどく稼ぎが悪いなり仕事ぶりや態度に兄貴分からみて問題があれば、拳骨のふるわれることも珍しくない。
一時的にヤサを追い出されたか、ここの暮らしに嫌気がさしたか、誰も詮索などしない。冷たい雨に降られていた昌巳の細い手足は、よく陽に焼けてはいたが血の気に乏しく、薄暗がりにも身体が小さく震えているのが窺えた。
 金は深く考えず、昌巳の細っこい身体を空いた片手で軽々と抱き上げ、暗い階段を上ったのだった。

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