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おもに少年愛と小説に関する雑記。エッセイとコラム
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子ども部屋7
 俺が横に座ると、伸介は惜しげもなくやっていたゲームのディスクをイジェクトして、別の対戦格闘ゲームを選んで、ディスクをセットし俺の横に座った。俺が彼の横に腰掛けた時よりもぐっと体を寄せて座る。こんな子を素直に愛してやれないとは俺も全くろくでなしだ。
 伸介は勝手にキャラを選んで俺に担当させるらしい。
 「何で俺が女でお前のがそんないかつい兄ちゃんなんや?」
 「知らんの? これ女とちゃうねんで」
 ……。何でも、女装してる少年だか若い男らしい。俺は買ったゲームの内容全てを熟知してるわけではない。遊びに来る子に乞われて中古で入手したはいいが、その子が来るときしか遊ばないゲーム、なんてのも多いし、いちいち予備知識を仕入れる気もなく、子どもに内容を教わりながらプレイするのを楽しんだりもする。……それにしてもマニアックな設定だ。何を考えてるんだろうな、ソフトメーカーは。
 「おっちゃん変態やからぴったりやろ」
 「くそがき!」
 俺はコントローラーを離していたずらっぽい目で見上げていた真横の伸介の首を締め上げた。もちろんふざけたノリで、である。脇の下をくすぐったりもする。
 「痛たたた! 卑怯やで、これで勝負せな」
 クッションと俺の体に挟まれて、下半身裸の伸介は、コントローラーを振りながらもがいていた。いかん、興奮してきた……
 しかし、これほど人懐っこい、甘え上手とも言える子が、今まで何度かうちに来ていながら、俺の目に止まらず、彼自身目立たず控えていたことは奇妙だ。

 とりあえず伸介の言い分に従ってゲームで勝負することにしたが、予備知識のない俺に勝ち目はなかった。キャラを入れ替えて、彼は俺にいろいろコツを教えようとしている。そういう時のやりとりからは、意外に彼が理の立つタイプであることがわかる。何度もこちらの予想を裏切る少年だ。ただ、理が立ち頭が切れるからと言って、ただちに勉強ができるタイプともまた、限らないのだが。
 「ちょっと待ってて、何か淹れるわ」
 立ち上がった俺を見上げる目。さっきからどうも気になっていたのだが、彼は目が悪いのだろうか。どうも視線が自然でない。
 「どないしたん?」
 「あ、いや、何飲む?」
 「何があるのん?」
 そうか……。両眼の、黒目の位置が微妙に違って、目の開き具合も少し違う。軽い斜視なのだろう。斜視の場合視力もあまりよくないことが多い。彼の視線に他の子にない不思議な魅力があるのは、この斜視のせいかもしれない。今あらためて見れば顔のつくりは端正で色白、なのに、美少年とか言う言葉と縁遠い印象は、斜視や歯並びの悪さから来るのだろう。
 「紅茶、コーヒー、ココア、かな。すぐ飲めるのは」
 「冷たいもんないの?」
 「せっかく淹れる言うてんにゃからつきあえや。同じもんにしよか。紅茶は?」
 「……ええよ」
 同じもんにしよか、で殺し文句だ。俺は薄いブルーの錠剤を、伸介から見えないように、シンクの横で紙の上に押し出して、スプーンの腹で押しつぶす。水に溶けやすいとは言い難い錠剤だ。冷たい透明な飲み物は濁ってしまう。
 「砂糖とミルクは?」
 「おっちゃんは?」
 待つ間にゲームはカーチェイスものに変わったようだ。声が少し上の空になっている。俺も手元で錠剤が飛ばないように必死なのだが。
 「俺は両方入れてミルクティー」
 「ほならおんなじでええ」
 紙をつぼめ、さらさらと粉末を紅茶に流し込んだ。

 「うまー!」
 歯をむき出して笑う伸介。俺は思わず吹き出した。
 「酒やないんやからもうちょっと静かに味わえ」
 きょとんとした目で伸介は俺を見ている。心臓が高鳴る、いろいろな意味で……。
 「続き続き」
 伸介の叩くクッションの指定席に、俺も再び体を寄せた。

 カーチェイスものなどやると、誰でも無用に体が動くが、子どものそれは愛らしい。二人で共同するモードを選んで、俺はアイテム係、スイングする伸介の体を受け止め、時折、空いた手を肩や背中に回した。男の子の体温、筋肉の動き、ささいなことで揺れ動き表出される感情のゆらめき。
 次第に無口になる伸介。もう焦らなくてもいいのに、俺の手は彼の足の付け根をあやしげに這ったりする。幼い体のスイング。コントローラーが、小さな手から落ちて、伸介は俺に脱力した体をあずけていた。かわいそうな伸介、もうありきたりな日常は戻らない。

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