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おもに少年愛と小説に関する雑記。エッセイとコラム
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近況&試作品「闇走る狼」(途中
 やばいです。精神的な意味では調子を取り戻してまずまずの生活をしていたんですが、張り切って掃除をしている最中にぎっくり腰をやらかしました。
 過去二度、やってて、腰痛用のベルトを持ってたので、それをして、翌朝、すぐ近くの接骨院に行きました。
 今もベルト無し、湿布の効果切れるとスローモーションでしか動けません。

 まあスクラッチまでまだ日はあるので、無理しなければよくなるとは思います。

 で、この中絶してた作品を、仕上げられれば短編本出せるな、っていうのを、ここに途中まで載せます。
 「闇走る狼」――やみばしる、と読んで下さい。


闇走る狼

 日本の経済が停滞して久しい中、アジアの諸国は活力に満ちた成長を続けている。少なくとも数字の上では、だが。
 たかだか数十年の間に、人の人権意識も経済感覚も驚くほど様変わりするのは、日本人も経験してきたことだ。人身売買も貧しさ故の子殺しも、忘れてよいほど遠い昔のことではない。いつか来た道を戻ることもあるだろう。
 幾度かの通貨危機や政変を経ながらも、このアジアの中堅国は、比較的安定した成長を続けてきた。だが今も、外貨獲得のためには性産業を切り捨てることができない。敬虔な仏教国でありながら。不思議なことに古くからゲイ天国でもあったこの国は、少年を買えることでも有名である。
 少し前なら、親が平気で旅行者に子どもを売った。うちの子を一晩いくらで持って行け、と。それだけ、貧しい人が多かった。金さえあれば、ある種の人間にとっては、ここは天国、微笑みの国であった。
 経済成長めざましい中で、そうした露骨なケースは少しずつ減り、また諸外国との関係上、国も児童売春を放置しているというスタンスはまずい。取り締まりも厳しくなった。だが、しぶとく生き残っている。アバウトさもこの国の特性だ。

 首都近郊のめざましい近代化を尻目に、北部や山岳部の農村地帯などは、取り残されている。だが貧しかったが、平和でもあった。
 富と繁栄に魅せられた者達は、あらゆるものに食いつく。都市部で調達できない子どもを、トラックで辺境を走り誘拐するのだ。拐かされた子の行く先に待つのは奴隷労働か、性の仕事か、それとも、臓器を奪われるのか。無力な者に逃れるすべなどない。

 見知らぬトラックが乗りつけられると、子どもが消える。貧しくも静かであった村々は、それを『夜の狼』と呼んでおそれている。

  †

 蒸せる闇、ディーセルオイルの匂い、埃と土にまみれた床。時折激しい揺れが、後ろ手に縛られ、ガムテープで口を塞がれたティムのからだを、狭い空間の中で左右に転がす。

 ティムは北東部の山裾の小さな村に暮らしていた。近隣の住民は、ほとんど自給自足に近い生活を送っている。小さな畑から採れる作物と、川魚。衣類やその他、何より車の燃料など、買い物が必要なときは、都市部に出て作物を売ったり、短期労働者として出稼ぎをし、家電品や衣類、燃料などを仕入れて、戻ってくる。
 これらの出稼ぎ労働者には、少年少女も含まれている。彼らは、学校の休暇期間、都市部のそうした施設に身を預けてからだを売り、自分の小遣いを稼いだり、家計を助ける。そんな中には、大人の単純労働よりも桁の大きい収入と、都市部の享楽に惹きつけられ、次第に故郷から遠ざかる子どもも多い。
 しかしながら、国の経済成長は、都市部の仕事の枠と給金をじりじりと引き上げており、そうなると遠方の街に子どもまで出稼ぎさせる親は、さすがに少なくなってくるのだった。

 ティムは十一歳(この国の年齢は数えであるので、満では十歳)の誕生日を間近に控えた元気な少年で、乾季の爽やかな陽射しの下、網を構えて川縁で魚を狙っていた。日本人と対比すれば比較的小柄で、骨格もほっそりとしているのが、この国の主要な人種の平均的な体格だが、ティムは日本人の同年齢相応の身長と、がっしりした体格を持っていた。最も、思春期はまだ先の、幼い同年代の中ではの話だが。肌の色は、こんがり陽焼けした夏休みの日本人少年くらいだ。もっとも彼の場合、一皮剥けてもこの肌の色は変わらないし、尻の色も、同じである。彼は全裸で、川縁を左右に歩き、魚群を探していた。
 ティムの家は比較的貧しかったが、年上のきょうだいが戦力になるので、通常は食うに困るようなことはなかった。それでもティムは、たまに学校を休んで家業を助けてはいたが。天候が荒れて作物がだめになったり家が壊れたりすると、たちまち家計は大ピンチになる、そんな危なっかしい経済状態だったが、ここらでは普通のことだ。
 川縁からは見えない未舗装道路の車の音は、まばらだがティムの耳には届いていた。しかし彼には無関係なはずのことだったので、気にもとめなかった。
 やせぎすで長身の男と、この国では少数派のビヤ樽みたいに太った体格の男が、早足で彼に近づいた。長身の男の方が、後ろからいきなり、彼を抱きかかえた。無論、ティムは背後の人の気配に気づいてはいたが、危険を感じる理由など彼にはなかったのだ。
 「なにす……!」
 ティムの正面に回った太った猪首の男が、ティムが言葉を発した瞬間に、みぞおちに大人の力で拳をねじ込んだ。息が詰まり、吐き気がする。その段階で、ティムは初めて危険を悟り、恐怖を全身で感じたが全ては遅かった。
 陸に上がった魚のようにからだをねじり跳ねるように暴れるティムを抱える男の腕は鋼鉄の枷のように彼のからだをロックしている。大声を二度ほど上げようとしたら、太った男の拳と平手打ちが飛んできたので、ティムの抵抗心は、みるみる萎えてしまった。暗いコンテナに押し込まれる寸前、道路を見渡した。一日に十台二十台しか車の通らない道だから、彼が相当な幸運の持ち主であっても、のぞみはほとんどなかったし、実際、その希望はむなしかった。

 ティムのいた河原に、思い出したように太った男が一人戻ってきた。あたりを見回して、ティムの残した漁具と、多少の収穫には目もくれず、彼の汚れたシャツとズボンを、拾い上げ翻ってトラックに戻っていく。

 後に残されたカゴの中の川魚は、夕暮れまでには干からびてしまうか、烏の餌にでもなる他はない。

(続く) 



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