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結局は新刊にできなかったので、「闇走る狼」続きを載せます。と言っても途中までなんですが。サイトか本かはわかりませんが、いつか完成させます。
それからお絵かきBBSの方に藤々さんからの頂き物をアップしています。ぜひご覧下さい。四枚の連作なので、小出しにさせていただきます(笑)
闇走る狼 続き
うめいてみたり、縛られた手足を必死に動かしてみても、いたずらに体力を消耗するばかりと悟ったティムは、荒い息を吐きながら、蒸せる暑さに耐えていた。
気持ちが少し落ち着いてくると、ティムは気づいた。かすかな、規則的な物音に。
それは生き物の息づかいに相違ない。ティムは寸時怯えたが、それが人のもの違いないとすぐに気づき、闇の中、視力の回復を待ちながら、重い木箱の向こう側から聞こえる呼吸の音に、耳を傾けた。
「誰かいるの?」
それは子どもの声だった。か細く小さな声だった。ティムは返事をすることができないが、塞がれた口から何とか声を漏らした。
箱の向こう側から、小さな頭がのぞいた。闇にまん丸な瞳だけが二つ光っている。コンテナの扉にはかすかに隙間がある。まだ外の陽は落ちていない。だから光は存在する。次第に少年の輪郭が、寝そべってもがくティムを見下ろす少年の顔が、ティムにしにんできるようなる。
丸顔で、幼い顔立ち。自分より二つくらい下かな、とティムは思った。
彼は手足を拘束されていない。口も塞がれていない。ティムは必死で、自分の手足の拘束や口のテープを剥がすように、動かぬ手足と言葉にならない声で訴えた。だが小さな少年は悲しげに首を振るばかりだった。この闇の中、ティムに見えるはずもなかったが、小さな少年の手首や足首にも縄の痕があり、その他の傷も、からだのあちこちにつけられていた。
ティムはなおも吠えるように訴え、少年を睨み、身を捩った。
やがてあきらめたように、身軽に箱を乗り越えた少年が、ティムの側にしゃがんで、ガムテープをゆっくりはがした。
「あ、痛た……」
「あ、ごめん」
「いや……」
ティムは頭を少し上げて、何とか笑ってみせる。
「縄……」
少年は首を振った。
「何でだよ? 手足さえ自由になればこんなとこ逃げてやる」
「外からぶっといかんぬきかかってるよ。絶対無理。でなきゃ僕が縛られてないわけないでしょ?」
確かにその通りだった。
「それに、逃げ損ねたら殺されるよ、たぶん」
少年は後ろを向き、何をするのかと思ったら粗末なシャツの背中をめくったのだった。見えない尻の部分まで、縦横に、やや治りかけであるが痛々しいみみず腫れがあった。木の枝か何かで、殴られたもののようだ。
そして、手のひらを見せると、右手の真ん中あたりに、三つの丸い瘢痕。これはタバコによるものだと、ティムにもわかった。
痛々しさが心にしみて、腹の底に重く不快な塊ができたように感じる。
「あいつら何だ? 俺達をどうする気なんだ?」
少年は首を振った。はっきりとはわからないと言う意味なのか、それとも絶望的な状況である、希望がないというNOの意味なのか……。
「夜の狼だよ」
「狼?」
「昔の日本では、子どもが突然いなくなると『カミカクシ』って言うんだって。神って言っても、妖怪とか天狗とか、何かの精霊のことみたいだけど。けどあいつらは、子どもをさらって、お金に換えるの。たぶんね」
噂は、ティムの村にも届いていたが、ティムは自分にはまるで関係のないことだと思っていた。その『夜の狼』に、自分が捕まるなんて。
「俺らがどうやって金に換わるって言うんだよ……」
「わかんない……わかんない……こわいんだ僕……」
少年が泣いている。自分も泣きたい。でも希望を捨てたわけじゃない。まだ何もわからないからだ。
「ねえ、名前は?」
「ベン……」
「俺、ティム。泣くなよ。あいつらが『夜の狼』だったら、俺達を殺して食うわけじゃないだろ。ほんとの獣みたいにさ。それじゃ金にならないもん。だったら、まだ助かる道があるかもしれないよ」
ベンは涙を拭いながら、うなずいた。
†
外の陽が落ちたのが幸い、コンテナの温度はずいぶん下がったが、日中に二人とも、かなりの水分を奪われていて、渇きに苦しんでいた。ベンがいつからコンテナに閉じこめられていたのかはわからないが、ティムより一日は長そうだった。むろんその間、食い物ものも飲み水も与えられなかったわけではあるまい。体の傷からすれば、それ以外のものもずいぶん与えられていたようだから。
トラックが大きく振動して、二人のからだはコンテナの前方に強く引きつけられた。後ろ手に拘束されているティムは、からだを前方に一回転させるはめになる。コンテナのドアが、ぎりぎりと開き、外は闇、だが新鮮な夜気が、こもった空気を洗い、二人は深く息を吸った。
それからお絵かきBBSの方に藤々さんからの頂き物をアップしています。ぜひご覧下さい。四枚の連作なので、小出しにさせていただきます(笑)
闇走る狼 続き
うめいてみたり、縛られた手足を必死に動かしてみても、いたずらに体力を消耗するばかりと悟ったティムは、荒い息を吐きながら、蒸せる暑さに耐えていた。
気持ちが少し落ち着いてくると、ティムは気づいた。かすかな、規則的な物音に。
それは生き物の息づかいに相違ない。ティムは寸時怯えたが、それが人のもの違いないとすぐに気づき、闇の中、視力の回復を待ちながら、重い木箱の向こう側から聞こえる呼吸の音に、耳を傾けた。
「誰かいるの?」
それは子どもの声だった。か細く小さな声だった。ティムは返事をすることができないが、塞がれた口から何とか声を漏らした。
箱の向こう側から、小さな頭がのぞいた。闇にまん丸な瞳だけが二つ光っている。コンテナの扉にはかすかに隙間がある。まだ外の陽は落ちていない。だから光は存在する。次第に少年の輪郭が、寝そべってもがくティムを見下ろす少年の顔が、ティムにしにんできるようなる。
丸顔で、幼い顔立ち。自分より二つくらい下かな、とティムは思った。
彼は手足を拘束されていない。口も塞がれていない。ティムは必死で、自分の手足の拘束や口のテープを剥がすように、動かぬ手足と言葉にならない声で訴えた。だが小さな少年は悲しげに首を振るばかりだった。この闇の中、ティムに見えるはずもなかったが、小さな少年の手首や足首にも縄の痕があり、その他の傷も、からだのあちこちにつけられていた。
ティムはなおも吠えるように訴え、少年を睨み、身を捩った。
やがてあきらめたように、身軽に箱を乗り越えた少年が、ティムの側にしゃがんで、ガムテープをゆっくりはがした。
「あ、痛た……」
「あ、ごめん」
「いや……」
ティムは頭を少し上げて、何とか笑ってみせる。
「縄……」
少年は首を振った。
「何でだよ? 手足さえ自由になればこんなとこ逃げてやる」
「外からぶっといかんぬきかかってるよ。絶対無理。でなきゃ僕が縛られてないわけないでしょ?」
確かにその通りだった。
「それに、逃げ損ねたら殺されるよ、たぶん」
少年は後ろを向き、何をするのかと思ったら粗末なシャツの背中をめくったのだった。見えない尻の部分まで、縦横に、やや治りかけであるが痛々しいみみず腫れがあった。木の枝か何かで、殴られたもののようだ。
そして、手のひらを見せると、右手の真ん中あたりに、三つの丸い瘢痕。これはタバコによるものだと、ティムにもわかった。
痛々しさが心にしみて、腹の底に重く不快な塊ができたように感じる。
「あいつら何だ? 俺達をどうする気なんだ?」
少年は首を振った。はっきりとはわからないと言う意味なのか、それとも絶望的な状況である、希望がないというNOの意味なのか……。
「夜の狼だよ」
「狼?」
「昔の日本では、子どもが突然いなくなると『カミカクシ』って言うんだって。神って言っても、妖怪とか天狗とか、何かの精霊のことみたいだけど。けどあいつらは、子どもをさらって、お金に換えるの。たぶんね」
噂は、ティムの村にも届いていたが、ティムは自分にはまるで関係のないことだと思っていた。その『夜の狼』に、自分が捕まるなんて。
「俺らがどうやって金に換わるって言うんだよ……」
「わかんない……わかんない……こわいんだ僕……」
少年が泣いている。自分も泣きたい。でも希望を捨てたわけじゃない。まだ何もわからないからだ。
「ねえ、名前は?」
「ベン……」
「俺、ティム。泣くなよ。あいつらが『夜の狼』だったら、俺達を殺して食うわけじゃないだろ。ほんとの獣みたいにさ。それじゃ金にならないもん。だったら、まだ助かる道があるかもしれないよ」
ベンは涙を拭いながら、うなずいた。
†
外の陽が落ちたのが幸い、コンテナの温度はずいぶん下がったが、日中に二人とも、かなりの水分を奪われていて、渇きに苦しんでいた。ベンがいつからコンテナに閉じこめられていたのかはわからないが、ティムより一日は長そうだった。むろんその間、食い物ものも飲み水も与えられなかったわけではあるまい。体の傷からすれば、それ以外のものもずいぶん与えられていたようだから。
トラックが大きく振動して、二人のからだはコンテナの前方に強く引きつけられた。後ろ手に拘束されているティムは、からだを前方に一回転させるはめになる。コンテナのドアが、ぎりぎりと開き、外は闇、だが新鮮な夜気が、こもった空気を洗い、二人は深く息を吸った。
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